安倍政権の末路

みやぎ憲法九条の会世話人・東北大学名誉教授 小田中聰樹

一.
安倍政権は日本を統治する政治的・社会的統治能力を喪失し行き詰まっている。

安倍政権の政策の根源にあるのは対米従属的な日米同盟の軍事的強化であり、これに副う憲法改悪である。彼は狼少年の如くあらゆる機会に改憲を呼号してきた。近時でも2020年5月3日の改憲派集会「美しい日本の憲法をつくる国民の会」に寄せたビデオメッセージで、2020年を新しい憲法が施行される年にしたいと述べた。

しかし改憲策動は暗礁に乗り上げている。20年改憲は勿論のこと、彼の自民党総裁任期中(21年10月21日)の改憲は不可能となっている。その意味で安倍首相の政治生命は末路を迎えているのが現実の姿である。

二.
ここで想起するのは岸政権の末路である。岸政権(1957年2月~1960年7月)は戦後日本の対米従属的関係(とくに軍事)の強化を目論み、日米安保条約の改定とこれに沿う改憲に乗り出した。憲法調査会設置(1957年8月発足)、安保改定交渉開始(1958年10月)、同条約強行可決・自然承認(1960年6月)、警察力強化(警職法改悪、1958年10月提出、但し審議未了)などが彼の事績、悪業の主なリストである。

しかしこのようなファシズム的な反動に対して、国民的な反対運動が展開された。21次に及ぶ統一行動が全国的に行われ、1960年6月15日には600万人が参加するデモや集会が行われたのである。

そして6月23日岸政権は退陣した。国民的批判に屈したのである。この岸政権の末路は私たちに歴史的教訓を残している。

三.
安倍政権は統治能力を失っており政策的に行き詰まっているが、この状況を弥縫するために治安権力への依存度をますます深めていくであろう。権力的正当性を調達し国民の批判を封殺するために必要だからである。このことは洋の東西や時代を問わない政治的権力(者)の狡知なのである。岸がかつて試みたように。

その方策として安倍政権が策動したのが検察官人事の私物化である。黒川東京高検検事長の定年延長の閣議決定(20年1月31日)、検察庁法改定案の国会提出(同年3月13日)がその方策である。その違法性、三権分立原則の侵害性、検察権の私物化、悪辣性への批判は、市民、市民団体、弁護士会、学会、言論界、地方自治体、野党のみならず、元検察官上層部(5月15付意見書)にも拡がり、黒川検事長は賭けマージャン問題が発覚したこともあり、5月21日辞任に追い込まれた。

結び
国民と民主主義の奥深い力量を侮蔑し国民の信頼を失った政権の末路は、歴史の教訓に照らし明らかである。(2020年5月24日)