安倍首相の退陣に当って〜安倍政権の「末路」と私たちの課題と責務〜

小田中 聰樹(東北大学名誉教授・みやぎ憲法九条の会世話人)

一 安倍首相は、2020年8月28日辞意を表明した。(この日の記者会見で)

  1. 憲法「改正」、拉致問題解決、日ロ平和条約締結の志を半ばにして職を去ることは、痛恨の極み、断腸の思いだ。
  2. 「憲法改正」は残念ながら国民的世論が十分に盛り上がらなかった。
  3. 実績は、外交、安全保障において安全保障関連法を制定したことだ。
  4. 米国との同盟関係は強固なものとなった。
  5. 森友学園、加計学園、桜を見る会の問題については長時間国会答弁した。
  6. 政権を私物化したことはない、

などと述べた(8月29日河北新報など)。

安倍内閣は、第2次が2012年12月、第3次が2014年12月、第4次が2017年11 月に発足し、合計約8年間政権を掌握してきた。

二 この8年間に安倍内閣が行った「悪政」の主なものを列挙すれば、次の通りである。

  1. 自衛隊明記。改憲の2020年施行を目指すと表明(2017年5月)。
  2. 戦争国家づくり。
    1. 国家安全保障会議(NSC=戦争の司令塔)の創設・発足 (2012年12月)。
    2. 特定秘密保護法の強行(2012年12月)。
    3. 集団的 自衛権行使容認の閣議決定(2014年7月)。
    4. 安保法制法=戦争法の強行(2015年9月)。
    5. 陸自の南スーダン PKO 日報の隠蔽(2016年12月)。
    6. 辺野古新基地建設工事の強行着手(2017年4月)。
    7. 共謀罪の強行(2017年6月)。
  3. 格差社会・財界優位社会の拡大(=国民生活破壊)。
    1. 生活保護・生活扶助の削減開始(2013年8月)。
    2. 後期高齢者医療保険料の引き上げ(2014 年1月)。
    3. 医療介護総合法成立(2014年6月)。
    4. TPP(環太平洋連携協定)承認関連法の強行(農業破壊)(2016年12月)。
    5. 改悪介護保険法推進(2017年5月)。
    6. 働き方改革一括法の強行(2018年6月)。
    7. 2度の消費税増税で10%引き上げ(2014年4月、2019年10月)。
    8. 生活保護基準の引き上げ(2019年10月)。
  4. 政治スキャンダルまみれ。
    1. 桜を見る会疑惑の問題化(2019年11月)。
    2. 黒川検事長勤務延長の閣議決定(2020年1月)。
    3. 森友学園の問題化(2017年2月)。
    4. 加計学園の問題化(2017年2月)。
  5. 原発再稼働と核禁見送り。
    1. 川内原発1号機再稼働推進。
    2. 核禁条約批准見送りなど。

三 このように、安倍政権は政策面で異様な政権であった。

米国一辺倒、原発 依存などに顕著にみられるのであり、約言すれば憲法破壊的、国民生活破壊的であった。しかし、これに留まらない。その政治手法面でも、政策目的達成のためには 手段を選ばず、破廉恥な手段に訴えることを厭わない政権であった。官僚組織の私兵化、言 論機関・ジャーナリズムの抱き込み・骨抜き、国家的暴力組織(検察・警察・自衛隊)の利用、 民間右翼勢力との結託などである。

四 その異様さは、強度の点で岸内閣(1958年6月~1960年6月)に優るとも劣らない。

だが、これを安倍首相個人の資質のみに帰することは誤りである。なぜなら安倍政権とは、 日本の支配層とアメリカの支配層とが協力して作り上げたものなのである。退陣後も第2、第3 のアベが出現するであろう。このことを私達は見抜かなければならない。 「アベ・エピゴーネン」 (安倍亜流)の出現を許してはならない。ここに私達の課題がある。 そして以上のような「アベ」 的なるものとは正反対の国家像・社会像を構想し、その実現に向けた営みを展開し、それを未 来の世代に引き渡すべき責務を私たちは負っている。安倍改憲を阻止した私たちは、この力量を持つことに自信を持とう。 (2020年9月10日)