忖度政治は、民主主義の危機

犬飼 健郎

森・加計や金融庁の老後の生活に2000万円必要とする報告書の大臣受取拒否そして総理側近の衆議院議長候補発言など考えられない問題が起きている。それらの原因が政治家の劣化にあり、さらに、それが小選挙区制に起因していることは多くの学者、評論家が指摘しているところである。以前、ペルシャ湾機雷掃海に自衛隊の派遣をアメリカから求められたとき、当時の官房長官後藤田正晴は、海外での武力行使につながる可能性のある対応はとるべきではなく、閣議で海上自衛隊派遣には署名しないと当時の中曽根首相に反対し、中曽根も派遣を断念した。かつては自民党の中にもそのような気骨の政治家がいたが、今は見る影もなく、みんなが権力者に同調している。

問題になっている忖度も、権力者の意向を先取りしてそれに添おうとするもので、国民の福祉や平和に目が向けられていない。長く内閣官房副長官を務めた石原信雄氏が、日経新聞の今年6月の「私の履歴書」で、官邸が各省幹部の人事権を握り、官邸の政治主導が強まっているが、それと行政の公平性・中立性は別の話で、法治国家は法の下の平等が原則である。支持政党や思想にかかわらず、同じ要件の人が行政から受ける恩恵に差があってはならず、行政も勇気を持って欲しいと書いていた。当たり前のことだが、権力者のお友達に行政も不当な利益を与えた森・加計問題などの現状を憂いて書いたものである。

行政の忖度は、最近では金融庁の老後の生活には年金のほかに2,000万円位が必要とする報告を大臣が受け取りを拒否したことにもその危険が伺われる。このようなことが続けば、内閣の顔色をみて行政行為や意見書の作成しかできなくなり、行政の公平性・中立性が失われてしまう。それによって被害を受けるのは国民大衆である。

さらに直近では、憲法改正を進めるため国会議長の人選についてまで首相側近が口を出すようになった。国権の最高機関をも政治権力者の思い通りに動かそうとしている。国会や行政がこのまま権力者を忖度し、唯々諾々と憲法9条の改悪案が国民投票にかけられるようでは、平和や民主主義が破壊されてしまうのではないかと強い不安に陥っている。